そして誰もいなくなった・・・
俺にかかわるな!
この無限ループの世界で何度も何度も転生して色んな人の死を見てきた侍・・・
自らも数えきれないほどの死を体験していくうちに心が崩壊しかけています
名前を聞かなくてももう知ってる・・・
あなたは梅宮信之助さん・・・だめだ・・・今のわたしに近寄ってはいけない
う・・・う・・・う・・・死んじゃった・・・
だから言ったのに・・・わたしに近づくなって・・・
もう自分でどうしようも出来ないんだ
人を斬って斬って・・・斬って・・・体がもう勝手に動いてしまうんだ
この世界の住人にクズだとか言ったりしたこともあったけど
誰よりも人を斬って・・・誰よりも人の命を奪っているクズはわたしなんだ
藤森主膳
こいつも何回も何回も殺した・・・こいつを殺しても何も解決しない
主膳を殺しても、またわたしは転生するしみんなも蘇る・・・そしてまた死ぬだけ
松崎源十郎 わたしはこいつをクズだと言った・・・
でも一番のクズはわたしだった
なんども桜花党の頭になったりもした
松崎源十郎は人望が無いのか殺してもだれもわたしを咎めない
むしろちやほやしてくれる
違う!違う!違う!違う!
わたしはいい奴なんかじゃない!ひれ伏してるおまえらだって・・・
平気で殺すクズだ・・・
わたしの今のたった一つの救いは
何度転生してもついてきてくれる奥さんの存在・・・いつも家で待っていてくれる
わたしの事を心配してくれる
こんなクズなのに・・・
いっそ鬼にでもなってやろうかと思う事もある・・・
だけど奥さんと一緒に居られなくなるのはさみしい
そんな時は誰もいなくなった実利城で動物たちと過ごし心を落ち着かせる
心を落ち着かせるために数日かかることもある・・・
あまりにも長くなると奥さんはわたしを叱ってくれる
「今さら帰って来たってあんたの居場所なんかどこにも無いよ!!」
「そんなにあたしが嫌か!」
「なんで帰って来なかった!」
「しばらく、そうやって土下座してな!」
涙が出る・・・こんなになってしまったわたしを本気で叱ってくれる・・・
わたしは土下座をして謝り続け
許してもらう
鬼になりたくない・・・もう他に誰もいない世界でもいい
わたしは奥さんと二人で永遠にこの世界で生きていきたい
わたしが死ななければ転生しないしみんなも蘇って苦しい思いを繰り返すこともない
ずっとこのまま・・・ずっとこのままでいい・・・
しかし、ある日わたしはついにやってはいけない事をやってしまいます
街で暴れてしまい大量殺人をしてしまったのです・・・
その日家に帰ると・・・奥さんの様子がいつもと違っていました・・・
「くつろぐ前に話があるんだ」
「あんた、カタギの人様に手ぇ出してるってのは本当なのかい?」
「これ以上あたしの顔に泥を塗るような真似はするんじゃないよ!」
・・・あ・・・あの・・・あ・・ご・・・ごめ・・・ん・・・
いつものお説教とは少し違う気がする・・・
これは・・・もしかして・・・
そして彼女はいなくなってしまいました
そりゃそうだな・・・そうだよな・・・しかたないよな・・・
わたしに・・・ほんの一時でもしあわせな時間をくれてありがとう・・・かすみさん
わたしは何人殺した?・・・志ある人を
わたしは何人殺した?・・・生きたいと願う人を
わたしは・・・わたしは何人殺した?・・・何の罪もない人たちを・・・
・・・決めたよ わたしは鬼になろう もう人として生きていくことは出来ない
自分だけ奥さんと幸せに暮らすなんて許されるはずが無かったんだ
死ぬ間際に藤森主膳が言いました
「おまえならば あるいは 信長を倒せるかも知れぬ」
「この儂を越え見事天下を取ってみせるか 地獄で見ておるぞ」
織田信長?天下?そんなものはどうでもいい
もう嫌だ・・・わたしは鬼になるんだ・・・
さようなら祇州天奈・・・
さようならみんな・・・
この地には 今も一匹の侍の姿をした鬼の伝説が語り継がれている。
その鬼はたった一匹で小国の民を喰らい尽くし
鬼を退治しにきた大勢の兵たちをも食らってしまったといわれている。
その後 その鬼がどうなったかは 諸説あり定かではない
・・・
・・・
・・・
なしこ